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Melty Life

第2章 初デート



「私は大丈夫。水族館は来須くん、私に奢らせてくれなかったから」

「まぁ、あたしも付き合ってもらってる立場には変わりないので、今日は甘えて下さい」

「それなんだけど……」


 ウエットティッシュで手を拭って、チュロスを割る片手間に、あかりは水和を盗み見る。

 ジャンクな紙コップに入ったロイヤルミルクティーを飲む仕草さえ、優美だ。フリルやリボンを好む女子が、決まって紅茶だのスイーツだのを好むという偏見は納得いかないにしても、水和という個人がそれらを嗜んでいる姿には、やはり見惚れないではいられない。いや、あかりは水和だから見惚れているのであって、例えばとり合わせがすき焼きやら焼肉やらでも、可愛くて優美に見えていたか。


「デートのこと」

「はい」

「ごめんね。なんか、調子こいたみたいなことしちゃって」

「え?」


 水和の口振りは、真面目な話でも始める感じだ。
 だのにあかりは今日一日が幸せすぎて、根拠もなく、彼女の胸裏が深刻である可能性が浮かばない。水和が神妙な顔をしているのに、内心は、さっくりしっとりとしたチュロスが美味しい、などと呑気に構えて、次の言葉を待っていた。


「あの、だから、やっぱり調子乗ってるよね。私。宮瀬さんに、来須くん、竹邑くん。三人が私を好きだと言ってくれたからって、全員とデートしてみたいだなんて」

「…………」


 やはりとるにたりない話だ。

 水和は、確かに気に病んだような顔をしている。しかしあかりにしてみれば、彼女の提案は思いがけないサプライズだったし、来須達にしてみても、門前払いに比べれば、望むところだったのではないか。

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