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Melty Life

第2章 初デート


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 たなびく風が甘辛さを含む季節、薄紅色に彩られた空を眺めていると、千里は心に染み入るものを感じる。

 親友を相手に運命と呼ぶのは稀少な例かも知れないが、二年前、千里はそう呼ばないではいられない再会を遂げた。


 中学三年生の初秋、千里は自分の人生において、珍しいほどのスランプに陥った。家庭が明らかに崩壊したとか、取り返しのつかない過失のせいで社会的立場をなくしたとか、大それた不幸を経験したのではない。ざっくり言えば、その朝、塾の成績のことで父親と揉めて、何となく帰りづらくなったのだ。

 来須家の大人達には、子供の苦手教科は怠慢と判断している傾向がある。千里も物心ついた時分から何の疑問もいだかないで勉学に励んできたし、各方面で成功している一族の大人達の背中を見て育っただけに、努力とは将来のための貯蓄だと、当然のように認識していた。もちろん苦手教科もない方で、目も当てられない成績とは無縁だった。
 しかし、その週は、実力テストで思う結果を出せなかった。父親の小言を聞かされて、母親の冷たい目に耐えて、そのくせ一歩私宅を出ると、千里は平常運転だった。変わらず学校と塾に通って、無事一日を終えていよいよあとは帰宅するのみになると、やはりテストでつまずいた箇所が授業でも解決出来なかったことが引っかかって、帰路を歩く足が重たくなっていた。

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