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Melty Life

第2章 初デート


 塾の近くのホテル街を意識したのは、その日が初めてだった。
 家族で宿泊する類のホテルではない、秘密を抱いた大人達が人目を忍んで入っていく界隈は、なかんずく千里のような育ちの良い子供からすれば、視線を向けるのも罪深いような異世界だった。
 そのやましい方角から、同い歳ぐらいの少年が出てきたのである。金髪にピアス、洒落た洋服──…やはり千里のような子供からすれば、憧れるのも咎められるような格好をした少年だった。


 …──何見てんだよ。


 鋭利なナイフを彷彿とする目をした少年は、ぞっとするほど冷たい声に凄みを持たせて、千里を睨んだ。直視しないように努めていたはずなのに、千里に潜んだ好奇心は、不良な少年に不快を与えるほど視線を向けていたようだった。


 …──おぼっちゃまの塾帰りかよ。何とか言ったらどうだ?!ぁあ?!


 不思議と恐怖は薄れていった。

 千里の祖父は、学校理事を務めている。教育者と茶飲み話をしていると、世の中には色んな子供がいて、誰もが千里のように窮屈で正しい生活を強いられているのではないことが、頭にインプットされる。
 小学生で既に処女ではない少女や、夜の街を知悉した中学生、親の顔を知らない子供……。そういった彼らの存在は、奇跡的に不自由な人生に恵まれた子供以上に、実のところ多数派なのだ、と、来須隼生は口癖のように話していた。

 だからかも知れない。

 アクセサリーをじゃらじゃらつけて、中学生とは思えないまでに派手な金髪をした少年に、ひとけのない公園に連れて行かれたところで、彼と歩けば歩くほど、千里はもうその容姿や言動にぞっとしなくなっていた。

 異質なのは、千里の方だからだ。

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