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Melty Life

第3章 春


 水和と竹邑を視察してきたばかりの眞雪は、ざっと二人の様子をあかりに報告してくれた。
 待ち合わせは、ここから近い植物園だ。どうりでカラオケを楽しむためだけに、わざわざ郊外の店舗を指定されたわけだ。園内に入った二人は、桜並木を歩いて、今まさにシーズン真っ盛りの花々を観賞して、温室を見て、広場で弁当を広げたらしい。やけに豪華な弁当で、手作りであることには変わりなかったが、水和は感極まった顔をしていたらしい。


「どんな調味料入れたんだろ……竹邑先輩」

「花崎先輩の好物、知ってたのかな」

「まぁ単純な正解だね。くそぅ、あいつこそ反則だ。最後って得だよね」

「お弁当かぁ……。うーん、あたしが作っても、きっと泣かせられるほどのものは出来ないし」

「そんな自信でどうするの。まぁ、いっか。私が花崎先輩なら、やっぱり竹邑先輩は選ばない。さ、せっかくだし何か歌って」

「今まで歌って待ってたんだし、眞雪歌ってよ」


 あかりは選曲パネルを突き返す。眞雪は甘えた声で同じ動作をしてこようとするが、トップバッターを恥ずかしがる彼女が可愛くて、ついでに今まで一人で待っていた分、親友の歌声に飢えたのもあって、あかりは頑なに選曲を拒む。

 結局、眞雪はアイドルソングを披露してくれた。六人組グループの楽曲で、かけ声やコーラス部分も複雑な歌を、隣にいるかよわげな少女は見事に一人で歌いきる。それも一曲目とは思えない、見事なコンディションだ。

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