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Melty Life

第3章 春


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 たった二日で叩き込んだ、付け焼き刃の花言葉の知識を披露して、おそらく一年で最も色鮮やかな花壇や並木に感動している顔を気取りながら、予め頭に組み立てておいた水和への質問リストを消化しつつ、自身の情報も小出しにして、昼ご飯を食べたあと、もう一度庭園を観に戻って、近くの美術館へ移ることにした。

 ゆうやが多少の芝居を入れなければ草花を好く物見客を装えなかったのは、水和が辺りの景色さえ霞ませるほど美しかったからだ。
 おまけに水和は、同級生でありながら、今や雲の上の存在だ。淡いピンク色に白い水玉模様のワンピースを着た彼女と並び歩いていると、会話のために必要な喉はつっかえそうになるし、肩の力も抜けない。


「今日、ボタニカルアート展やってるんだ。もちろん俺は初めてだが、植物絵画って面白れぇんだってさ。元は薬学や医学書のために写生されていたらしくて、絵画として娯楽の一つになった今でも、再現度が本物みてぇだって聞いたことがある」

「そうなんだ。楽しみ!」

「選択教科、二年は美術とってたな。好きなのか?」

「横好きだよ。私って妄想癖あるんだ。想像するのが好きなの。人の想像したものを観るのも好きだし、自分の想像したものを表現したり、描いたりするのも嫌いじゃない。ボタニカルアートはどんな風なんだろうな。写生って言っても、やっぱり、描く人によって癖っていうか……よく見ると違うと思う」

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