
Melty Life
第3章 春
水和は、ともすればヒーローにでも出会った子供のような目を輝かせていた。
その目に、好奇や非難、自称優等生達がたまに見せる、他人の不正を暴こうとする詮索の気配はない。
「そんな顔されるようなことしてねぇよ。俺なんか偉いもんじゃねぇし」
「ううん。竹邑くん、よく見たらモデル向きの顔だよね。それに莢ちゃんとの共演、すごく演技派って感じだった」
「サンキュ」
水和がゆうやを褒めるほど、後ろ暗さの生んだ鉛がどんどん胸に落ちていく。彼女の澄んだ優しい言葉が、ゆうやの中で虚無に変わる。
志などない。誇りも。
モデルの仕事はただ縁あってありつけた、あの父親を辛うじて黙らせておける収入源の一つに過ぎない。
「甘いのは、好きじゃない……」
「え?」
「チョコとか」
「あ、……ふぅん。そうなんだ」
手作り弁当を持って、自然豊かなデートコースを選べ。
莢のアドバイスは、それなりの効果をゆうやに感じさせていた。しかし、水和はゆうやの苦手な食べ物も覚えていないじゃないか。こんな綺麗なデートコースは、あの特集で相手役などものともしていなかった、清らかな自己愛に溢れた人間にこそ、真の効果をもたらすのだ。
