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Melty Life

第3章 春



 玲は、知香という新入生にまつわる一部始終を知っている。もっとも、あかりだって知り合ったばかりの下級生の全てを知るわけではない。一部終始というのは、あくまであかりが説明出来た範囲を指す。

 
「連絡してるよ。最初メールしてたんだけど、迷惑メールと間違えて消しちゃいそうになることあったから、LINEのアカウント作ってもらって」

「高校生にもなって純朴そうな子だよね。たまにあかりが姿をくらますわけが分かった時は、ビックリしたけど。花崎さんの件で、身辺整理したって言ってたから……」

「知香ちゃんはそういう対象じゃないから。ああいう現場見て、放っておくのも後味悪いっていうか……人間慣れしてないみたいだし、話す練習相手になれれば良いなって」

「なるほどね。その一年生、今度はあかりファンになじられないよう祈っとく」

「いないでしょ、無所属のあたしのファンなんて」


 どうだろうね、と、ともかが意味深な秋波をあかりに送りながら、メロンジュースを吸い上げた。

 このままではいけない。知香を一時的に彼女のクラスから避難させて、友人がいないという彼女の話し相手をしている内にも、あかりの中で、本当に重要な問題をうやむやにしている意識が増す。
 知香は、同世代の少女らと友人らしく話したことがなければ、親切心に触れたこともないという。両親の優しさに支えられて今まで生きてこられたにしても、一日の過半数を過ごす学校はまるで地獄だったと。だから、あかりと話しているだけで、こんな学校生活もあるのだと知れて、満足出来る。知香はあかりにそう言った。その言葉は、いじめの事実を教師達に知らせないでくれという意も含んでいた。

 出逢うこともなかった知香と歩いているところを万が一水和が見かければ、少しは妬いてくれるだろうか。

 よこしまな思いがにわかによぎって、ふっと、底知れない淋しさに似た感情があかりに迫った。

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