
Melty Life
第3章 春
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水和が竹邑と出かけた翌日。
新年度が明けてそろそろ馴染んできた教室の扉を開けた途端、違和感があかりを襲った。
ざわっ…………
文字通りの効果音こそ立たなかったにせよ、教室にいた生徒達があかりに向けた視線は、思春期の少年少女らが好物とする、どこか陰気な噂話を根拠とした無言の攻撃性を伴っていた。とりわけ恵まれた家庭に生まれ育った優等生らが、稀に出くわす異質なものに対する視線だ。
前列に座っていたクラスメイトの一人と目が合った。
「おはよ」
「あ、うん、おはよう」
日頃から親しいわけでなくても、彼女のよそよそしさは明らかだった。
温室育ちの子供というものは、どんな事情があれ相手を無視出来るような度胸も発想も、持ち合わせていない。あかりはそれを気の毒に思いながらも、聞き取れないほどの彼らの囁き、遠慮がちな視線の心当たりを探りながら、席へ進む。斜め前では、既に登校していた眞雪がノートにシャープペンシルを走らせていた。面倒なことを後回しにしがちな彼女は、しょっちゅう朝に課題をこなす。
