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Melty Life

第3章 春



「おはよー、あかり!」


 テキストに集中していたはずの眞雪は、あかりが椅子を引いた時、勢い良く振り向いてきた。

 眞雪は普段と変わらない。春にクラスの離れた玲はともかく、まだ姿の見当たらないともかは分からないが、少なくとも眞雪は教室の変化の影響下にいない。あまりに明るい彼女の今しがたの第一声は、周囲にいた数人の顔色を変えたのに、本人はものともしていない。気づいてさえいないのか。


「……ね、やっぱり、ガセじゃない?」

「宮瀬さんに限って、ねぇ。真面目そうだし」

「笹川先輩並みに、人気あるみてぇだし。どっかの女子の、恨みでも買ったんじゃねぇ?」

「でも、ちょっと生々しかったよね……」


 生徒達の囁き合う声が、今度は断片的に聞き取れた。

 正体不明の魔物が、あかりをせせら笑ってでもいるようだ。
 おそらく当事者はあかり自身、だのに状況はまるで掴めていなくて、周囲だけが何もかも知った様子で真偽を論じ合ってる。


「あかり、来て」


 にわかに眞雪が腰を上げた。有無を言わせない語調であかりを見ると、廊下へ向かった。

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