
Melty Life
第3章 春
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ホームルームまでの僅かな時間、千里はある一点を気にして盗み見ていた。
水和の席。
そこには百伊と、昨年はクラスの違っていた女子生徒達が集まっていた。
会話の内容は聞こえない。ころころ変わる水和の顔は、先月、千里と水族館を歩いていたより生き生きしている。そんな風に見えるのは、千里自身が恋愛における自信に欠けているからか。
成績は努力の結果を維持している。運動も、あの両親が満足するほどの出来だ。一通りの作法も心得ている千里は、物腰も、とりわけ感じやすい少女達のお気に召すのか、告白を受けた数もそれなりにある。
だのに水和を相手にしては、それらは全て意味を持たない。水和と親しい百伊の信用も、失っている。水和とゆうやのデートを憂慮しなかった千里は、彼女にしてみれば薄情者だ。
…──千里。お前も大きくなった。言いにくい話も、お前のために打ち明けねばならないかのう。
昨日、祖父は例のごとく千里にケーキを振る舞った。
その頃には部屋が物色された胸糞悪さも幾らか晴れていた千里は、桜のモンブランを頰張りながら、沈痛に声を低めた隼生に首を傾げた。
