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Melty Life

第3章 春



「皆……勝手に鵜呑みにして、自分の意思はないのかって言いたいわ!」

「眞雪」

「こそこそ話してる暇の分、自分に必死になれば良いのに。勉強とか」


 思わず笑いそうになった。


「ごめん。心配してくれてるのに。眞雪から勉強って、意外っていうか」

「たっ、例えば」

「とりあえず、話は分かった。戻ろ」


 踵を返したあかりを追う足音に、眞雪の苛立つ声が重なる。


 噂話の発信源は、あかりに関して何か根拠を握っていたのか、さっき男子生徒が予測した通り、何かしらの恨みがあっただけか。

 どちらにしても、どうしようもない。どうしようもない以上、自然消滅を待つしかない。

 人間の多くは飽きっぽい。日頃注目を集めることもないような一生徒の過去など、気にし続ける価値はない。


「そういうとこ、あかりは損だよ。はっきり否定した方が良い」

「ありがと」

「答えになってない」

「…………」


 こんなとりとめない噂話でも、学年を超えて、水和の耳に届いたりするのだろうか。

 誰が誰を好きだとか、誰かの親が不倫したとか、どこぞのクラスの生徒が万引きしたとか、ぎりぎりのスリルは、好奇心を満たす生贄として適材だ。当事者からすれば、事実なら限界点を超えていて、立派にシリアスな問題だが、それを面白がる側からすれば、安全が保証されている。日常に引っ張り込んだ非日常について、満足いくまで議論したら、いつの間にか話そのものは風化する。


 どのみち嘘でもない事実の否定は、難しい。


「損してるつもりはないよ」

「あかり」

「本当のことだし」

「…………」

「眞雪には、話したでしょ。花崎先輩の近くに来られたのは、小野田さんのお陰かも知れない」


 小野田さん。

 下の名前は、忘れた。いや、初めから聞いていなかったか。

 確かにそういう名前の女に、あかりは助けを求めていた。女の要求であればどんなものでも呑んでいた。

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