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Melty Life

第3章 春



 …──宮瀬ちゃんって、男の子に恋したことある?


 大人にしては、珍しい問い方だと思った。恋愛話について、大抵の大人は相手の性別を異性と決めつけた上で始めたがる。


 …──ふぅん。こんな綺麗な顔してて、ないんだ。宮瀬ちゃんくらい綺麗な子には、男の子なんて役不足なのかな。


 小野田の片手は、あかりの頬を包んでいた。通勤した格好のままの彼女は、一分の隙もなく化粧していて、アイカラーの効果もあってか、眼差しはいやが上に力がこもっていた。熱く、ねっとりと甘い目力だった。


 口づけの提案に、嫌悪感はなかった。恋愛中の女子であれば、そうでなくても、特別視もしていない人物相手に好んでしたいものではない。
 だのに小野田のキスがあかりの脳をとろかしたのは、彼女が美しかったから。憧れた少女の後輩という立ち位置を志していた一方で、親しくまでなることは、夢のまた夢だったからだ。

 啄むだけの口づけが、水音まで立つまぐわいになるにつれて、判断力をなくしていったのかも知れない。小野田の息遣いは上がっていた。女の側面をむき出しにした彼女は妖しく、思考だけではない、腰の奥のとろけていく感覚が、あかりを麻痺させていった。


 …──…ぁっ……ゃあっ、恥ず……かしい……。

 …──未経験のくせして、糸まで引いてる。いやじゃないんでしょ?


 あかりのスカートから手を引き抜いた小野田は、無色透明の粘液をもてあそんでいた。

 小野田は手慣れていた。あかりが知識でしか心得ていなかった肉体同士の交渉において、相手を誘引するだけの技量を備えていた。優しい近隣住民の表層にくるんだ本性を露呈しても、主導権を握っていられるだけの相手を見極める目も、持っていた。

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