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Melty Life

第3章 春


 来須千里という上級生は、確かに咲穂のような女子生徒が中身を知りもしないで好意を寄せるには、十分だ。学校指定のブレザーを、学校の指示する通りにきちんと着用しているだけの優等生なのに、毎朝丹念に身支度してくる女子より目立つ。人づてに聞いたステイタスは高いし、成績優秀、入学してまもなく行われた学年対抗の球技大会でも、彼はチームの中心になって快進撃を続けていた。

 そのことを数日前、あかりと昼休みを過ごしていた時に話題にしたところ、いつも穏やかな顔をしている彼女は、珍しく綺麗な顔を引きつらせていた。

 知香が信頼している上級生は、知香の怖れている同級生と、感覚まで違うらしい。もちろん、あの咲穂と内面的なものが同じであれば、あかりが咲穂にあれだけ優しいわけがない。咲穂とて初めは来須が目に障ったのは本当らしいが、引きずり落とせなければ自身の魅力に落とせば良いのだと開き直ってからというもの、口先より熱を上げているように見える。


「ところで、咲穂さ、お姉ちゃんにやりすぎじゃない?」


 咲穂と騒いでいたとりまきの一人が、声を潜めた。

 出来れば縁を切りたかった女子グループの談笑は、耳に心地の良いものではない。それでも知香の耳が一番に拾ってしまうのは、相変わらず教室の中で、彼女らが群抜いて声を張り上げているからだ。


「思ってないでしょ」

「ははは!」

「それで私の評判まで下がるわけでもなし。何度も言わせないで、嫌いなの。姉とも思ってないから」

「咲穂が良いなら、私らは何も言わないけどね。あんたが吹き込んだ先輩、マジ信じちゃって言い回ってたよ」

「先輩さいこー」

 どっ、と、愉快げな笑い声が上がった。咲穂が末っ子だということは、知香も何となく知っている。
 興味はない。同じ校内の生徒らしいが、顔を合わせることもないと思う。外面の良い咲穂が姉とそりが合わないのもしっくりこない話だが、相手が実の姉であったところで、やはり自分より目立つ人間には容赦がないということだろう。

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