テキストサイズ

Melty Life

第3章 春


* * * * * * *

 ゴールデンウィークも間近な放課後、連休までの残り少ない通常授業の合間も使って、演劇部は文化祭に向けた舞台の演目を選んでいる最中だった。


「はい、水和」

「ありがと」


 百伊から回ってきたのは、演劇作品として有名なタイトルだ。読まなくても内容は知っているが、生徒会から与えられた時間内に収まるよう手が加えられているものである以上、読まないわけにもいかない。
 読書自体は、好きだ。ただ、この、ほぼ全員の部員が揃っていながらのあまりに静かな空間は、慣れない。


「水和、読むの速くなってるね」

「要領を得てきたのかも」

「感服。ね、お茶買いに行かない?」

「時間は平気?」

「私もあと一冊で読了だから」


 中高一貫の部内でも、あっという間に最高学年になっていた。断りを入れる部長は同級生で、席を外すことを伝えるのにも気兼ねない。
 それでも気軽に休憩をとれない下級生達を尻目にして、自分達だけひと息つくのも気が引ける。水和は百伊と、他の部員らにも所望する飲み物を訊いて回った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ