テキストサイズ

数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

「なっ…何言ってんだよ」

笑いを含んだ潤の声が聞こえた。


潤の言う通り。

ここに来て何、冗談を言ってるんだ。


「自分が何を言ってるかわかってるんですか?櫻井が店にいたのは確かって言いましたよね?」


張り込みしてたんだろ?

自ら犯人を見失ったとでもいうのか?


「はい、それは間違いないです」

「だったら……」

「しかし遺体は御村託也なんです。歯の治療痕からそう断定されました」

その言葉に一ミリの迷いもなく、潤の目を見て言い切った。


「意味が分からない」

思わず心の声を吐露した。


吐露せずには……いられなかった。


「誰かが中にいたという可能性はないんですか?」

その中でも和也は冷静に質問する。

「菊池風磨という人物が、櫻井と一緒にビルに入ったのは
張り込みの者から聞いてます」

それは俺たちも知っている。

確かに血まみれで風磨はビルから出てきた。

「風磨だ!風磨に聞けば間違いない。だってあいつは……」


潤の口からそれ以上の言葉は出なかった。

潤の言いたいことはわかっている。


でも言えなかった。



アイツは……たぶん櫻井を刺した。



「菊池風磨には何があったのか今、任意で事情を聞いています」

「風磨は……なんて言ってるんですか?」

智が神妙な面持ちで尋ねた。

「櫻井さんを刺したと言っています」


本人が認めてるんだ。

俺たちがかばったところで、自白を覆すことなんて出来ない。


「そして衣服に残っていた血液から採取したDNAと遺体のDNAの型が一致しました。なので殺害したのは菊池で間違いないです」

俺の言葉は遮られ、化学が証明する事実を淡々と伝えられる。

「なら……」


じゃあ……やっぱり死んだのは櫻井翔じゃないか。


「いくら菊池が櫻井を殺したと言っても、櫻井翔があの場所にいたと言っても、櫻井翔の遺体や痕跡はどこにもないんです。状況証拠から見て菊池風磨が刺したのは御村託也だという事です」



わからない。



御村託也って、誰なんだ?




俺たちが探していた櫻井翔は……どこに行ったんだ?

ストーリーメニュー

TOPTOPへ