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数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

「そんなドラマみたいな事って……」

ポツリと和也が呟いた。

「どういう事?」

智が和也の顔をじっと見つめて答えを待つ。

「戸籍を……2つ持ってたってことですよね?」


戸籍を2つ?

そんな事って……あるのか?


「その可能性が高いかと思います。どう入手したのかは不明ですが……」

「何なんだ……何なんだよ!」

イライラした潤が自分の髪を乱暴に掻きむしる。

「日々、身元不明の遺体は発見されます。誰かわからない以上、その方の戸籍には死亡はつかず残っているんです」

そんな事、正直言って今はどうでもいい。

「御村託也について調べてみると、実家の家業を立て直すために多額の借金をしていたそうです。もしかしたら櫻井のヤミ金から借りていたのかもしれません。しかしある日を境に多額の借金は、一括返済されたと家族の方から聞きました」

「じゃあ、その時に……」

智はその後の言葉を口に出すことが出来なかった。

「あくまでも可能性のひとつですが、年齢は近いかと……」

同じように智が口に出せなかった言葉は出ない。

「あと、御村託也名義で飛行機のチケットを取っていました」

「チケット?」


何でそんなモノを用意していたんだ?


「行先はスペインで、出国は今日」


今日ってことは……

まさか……


「逃亡を図ろうとしたようです。恐らく、強制捜査の情報が漏れていたのかと。櫻井……いや、御村託也の情報網ならあり得ない話ではないと思います」


何、言ってんだ。

ヤツは御村託也じゃない。

そんなヤツ、俺は知らない。


「今、誰が御村託也に内部情報を漏らしたが内密に調査中です。ただ上層部が相手となると……」


誰が漏らしたかなんてどうでもいい。

今更わかったってこの現状は何も変わらない。


それよりも俺は……


「櫻井……だろ」

「雅紀!」

潤が殴りかかろうとした俺をグッと引き寄せた。


「御村託也って誰だよ!」

抱きしめてくれている潤の胸を何度も何度も、握りしめていた拳で叩いた。

「相葉さん」

冷静に俺を名を呼ぶので思わず振り返って睨みつけた。

「心中お察しします。しかしあなた方が、そして私達が逮捕しようとしていた『櫻井翔』はそこにはいなかった。そしてアイツが本当に御村託也なのかさえも、もう……」

それ以上の言葉は語られなかった。

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