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数珠つなぎ

第9章 俺たちは歩いていく

【和也side】


「そろそろ休憩したら?」

潤の声でパソコンから現実世界に意識を戻した。

「んー、わかった」

俺は眼鏡を外すと目頭を押さえる。

「どーぞ」

デスクに潤の入れたカフェオレが置かれる。

「ありがとう。これでエネルギー補給できるよ」

一口飲むと欲していた甘さが身体に染み渡る。


それは日によって違う。

でも毎回、絶妙なんだよな……


いつの間にかマスターが入れるカフェオレより、潤の入れるカフェオレの方が好きになった。

まぁ、それを言ったらマスターが怒るから内緒だけどね?


「ホント、和也も智も集中すると止まんないんだから……」

大きな溜め息をつきながら俺の隣に座った。

「潤も雅紀もそうでしょ?」

「そうだけどさ、俺たちは腹が減るもん。だから途中で止めれるけど……智と和也は食に興味ないでしょ?」


まぁ俺たちは食べなくても平気だからね。


「俺たちがいなかったら飢え死にだよ」

「そうかも……ね」

実際、ここで働くまでは殆どご飯を食べていなかった。

以前みたいに体力を消費することもなかったから、食べる必要性を感じなかった。


「いい加減、智の作業を止めさせてみんなでご飯食べよ?もうすぐ雅紀も落ち着くだろうから」

「わかった」

残っていたカフェオレを喉に流し込んだ。

「にしても凄いな……これ」

俺のパソコンをまじまじと見つめる。

「そう?これでも少ないくらいだよ」

目の前には6画面対応のPC。

すると潤の見つめる先に表示していた銘柄の価格が動いた。

「これ……買いだな」

身体を前のめりに戻し、キーボードを打つ。

「かーずーなーり」

地を這うような潤の声で思わず、マウスをクリックしてしまった。


あぶねぇ。

これ、買いで良かった。


「わかった、もう終わるから」

「体壊しても知らねーからな!」

バッと空のグラスを取ると、喫茶店へと戻っていった。


あっ、今は喫茶店の時間じゃないわ。


「さてと……智を呼びにいきますか」

なまった体を思いっきり伸ばすと、久しぶりにフローリングに足を下ろした。


「イテ…ッ」

あっ、やべーな。


トントンと腰を叩きながら、智のいる作業場へと向かった。

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