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数珠つなぎ

第9章 俺たちは歩いていく

今の俺があるのはマスターのお陰だ。


あの日マスターはここで働く、そして働き続けるための条件を出してきた。


ひとつは今住んでいるアパートを引き払い、ここに引っ越してくる。

きっと、やると決めたら……逃げるなって事。


もうひとつは『自分のやりたい事』を見つける事。

そしてそれを見つける期間は6ヶ月。


『やりたい事』

そう言われても、何も浮かばない。



『櫻井を逮捕させる』

それは、俺自身の目的ではなかった。


智を救うため。

雅紀と潤を救うため。



じゃあ俺自身は……何がしたい事があるのか?



暫くすると智、そして雅紀潤もやりたい事を見つけた。

智に関してはやりたかった事なのかもしれない。


智は家族の借金の返済の為、雅紀や潤は櫻井への復讐の為に自分の時間を犠牲にして来た。


だから3人には『自由』なんて無かった。

そんな事すら、考えなかったのかもしれない。


でも俺は違う。

智たちと出会う前は平々凡々な日で、だだ1日1日をなんとなく過ごしていた。


そんな俺が6ヶ月という短期間で『やりたい事』なんて見つかるのか?



期限まであと1ヶ月になった頃、俺に転機が訪れた。



プルルッ……


滅多にならない俺のスマホがまた着信を告げる。

「出ないのかい?」

視線は本のまま、マスターが俺に声をかける。

「はい」

電話の主は元上客。

ここ最近、ずっと電話してくる。


また、抱きたいとでも言うのだろうか?


「出てみたらどうだい?」

「えっ?」

「人との縁は悪いものばかりじゃないよ」

ニッコリと微笑むと、また視線を本に落とした。


そう……なのかな?

マスターに言われるとそんな気がるすんだ。



電話の内容は仕事の手伝いをして欲しいとの事だった。

その上客とは同じゲームの話で盛り上がったことがあって、接待を兼ねてのオンラインの繋がりもあった。

だから俺の並外れたゲームのレベルは知っていて、この仕事にも初心者であってもすぐに対応できるだろうって。


そこで俺はデイトレーダーという職業を知った。


久しぶりに何かに興味を持った。


ゲームの様にって言ったらダメだけど……

自分の予想や行動で結果が決まるドキドキや、ハラハラ、そして何よりも楽しいって気持ちを感じたんだ。

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