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数珠つなぎ

第9章 俺たちは歩いていく

【雅紀side】


「ごちそうさま」

「ありがとうございました」

最後のお客さんが笑顔で帰って行く。


「お疲れ」

潤が喫茶店に顔を覗かせる。


いや、今は喫茶店じゃない。


『桂花楼』


俺が大好きだった、両親がやっていた店。

そして兄貴が継ぐはずだったお店。


『やりたい事』って言われた時、俺は店を復活させたいって思った。


「何か手伝おっか?」

「ありがとう。冷蔵庫に下準備したやつがあるから取ってくれる?」

「了解」

かけてあったエプロンを取ると、つけながら冷蔵庫へと向かう。

「智と和也はどうしてた?」

「相変わらずだよ……だから声かけて来るように言った」


そう言えば俺と兄貴もゲームに夢中で、ご飯を食べに来ないと母ちゃんが部屋に怒鳴り込んで来たもんな。


「ふふっ……」

「どうした?」

冷蔵庫から取り出したものを俺の前に置くと、潤が不思議そうに見つめる。

「昔の事を思い出してね」

「そっか……」

潤は俺の言葉に嬉しそうに笑った。


思い出話に花が咲く。

ようやく過去を悲しく振り返る事が無くなった。


父ちゃんも母ちゃんも、こんな風に笑いながら料理を作っていたのかな?


「いい匂い」

「これは……レバニラ?」

和也のテンションの上がる声と、鼻の穴を大きくさせて匂いを吸い込む智。

「2人も食べてないんだから、スタミナつけて元気つけてよね!」

出来上がった料理をお皿に盛り付け、テーブルに並べていく。

「それにしてもご飯、入れ過ぎ」

目の前の山盛りのご飯にげんなりする和也。

「雅紀、早くおいでよ!」

お箸を持って俺が椅子に座るのを待っている智。

「お前らが早く来なかったんだろ」

お腹が空いていて少しイライラしている潤。


昔の俺達みたいだよね?


『お父さーん、お兄ーちゃん、雅紀、ご飯できたわよー!』


「雅紀、どうした?」

潤が俺を呼ぶ。


母ちゃんもこの光景を見てたの?


「わかった」

俺が椅子に座ると、みんなが手を合わせる。


「「「「いただきます」」」」

みんなで他愛もない話をして笑って、美味しそうにご飯を食べる。



ねぇ、俺もあの時の様に……笑えているかな?

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