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数珠つなぎ

第3章 あんたを許さない

VIPルームの鍵を取りに受付に行くと、履歴書に貼ってあった写真の顔がそこにはあった。

「VIPルームの鍵」

そう言うと、準備していた鍵を手を震わせながら震えながら俺に渡してくれた。


涙をいっぱいに浮かべて……


まだ営業時間前。


出勤メンバーの出勤まではまだ時間はある。

そして二宮を相手した上客はすでに帰っているのは確認済み。

ただ念のため周りに誰もいないことを確認して受付の中に入った。


「雅紀」

「潤」

カウンターに隠れる様にしゃがみ込むと、雅紀は顔を手で隠した。

必死に声を殺しながら、泣いている。

悔しくて、悲しくて……そして自分を責めている。


あの時と同じように……


「泣かないで?雅紀が悪いんじゃない。二宮はあの時の俺と一緒なんだ。止めることは誰にもできないんだよ……」

好きな人の為なら自分の犠牲を厭わない。


俺がそうだったように……


「わかってる……わかってるけど……」

震える身体をギュッと抱きしめた。

「ごめんな?辛い思いをさせて……俺にもっと力と頭の良さがあったらアイツらを巻き込むことも、雅紀をこんな所に連れてくることもなかった」

「じゅ…ん」

胸に埋めていた顔を上げて潤んだ瞳で俺を見つめる。

「俺は嬉しいよ?巻き込んでくれて。もう待つだけなんて、耐えられなかった。それも今の二宮と同じ気持ち。大切な人の役に立ちたい……」

目を潤ませながら俺に訴えかける。

「雅紀……ありがとう」

俺の言葉ににっこりと笑った。


その姿が艶やかで、見惚れてしまった。


触れたい。


ゆっくりと雅紀の顔に手を伸ばし、薄い唇に指を這わせようとした。

「潤?」

こんなにも近くに雅紀の顔があるのに触れることが出来なかった。


だってさっきまで俺はこの手で……


この手で触れてしまったら、雅紀は汚れてしまう。


伸ばした手を戻し、爪で何度も自分の掌を掻きむしる。


教えてくれ。

どうしたらこの手は綺麗になるんだ。

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