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数珠つなぎ

第4章 あなたたちを助けたい

窓から差し込む夕日でオレンジ色に染まるリビング。

ソファーに寄り添いながら座ってる父ちゃんと母ちゃん。


穏やかな2人の表情。


その姿は俺が1人暮らしをする前まで見ていた風景。


でも2人で見ていた韓流ドラマは、テレビ画面には映っていない。

笑い声も聞こえない。

目が開いていない。

顔に血の気がない。


無いものばかりなのに一つだけあったのは、それぞれの服に染まった赤い大きなシミ。


「父…ちゃん?母…ちゃん?」

全然、返事をしてくれない。

「にい…ちゃ…ん?」

視野の端に変わり果てた兄ちゃんの姿を捉えた。


その姿は無造作に置かれた人形のよう。


ドアの所で足を伸ばして座っていて、手は力なく垂れ下がる。

そして片方の兄ちゃんの手は赤く染まり、その近くには血がついた包丁。

「な…なんで?」

少しだけ見えた首に巻き付いた紐。

辿っていくとその紐はドアノブにくくりつけられていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そこからの記憶はプツリと切れていて、記憶の再開は潤が俺を羽交い絞めにした所。

「雅紀っ、落ち着け!くっ…」

俺の暴れる手足が容赦なく潤の身体を痛めつけた。

「雅紀!」

俺の身体をクルリと回転させ、肩を掴む。

「離せ…っ!」

目の前に映る潤の唇の端に血が滲んでいた。


その瞬間、不安が襲い掛かる。


「嫌だ……嫌だ……」


潤が死んじゃう。

潤まで……俺を置いてかないで。


「まさ…き?」

潤の姿が段々とぼやけていく。

「死なないで……潤、いかないで……」

潤に触れたくて手を伸ばすと、温かい手に包まれる。

「俺は死なない。ずっと、そばにいる」

身体が温もりに包まれる。

「じゅ…ん」

名前を呼ぶと同時に意識を手放してしまった。


周りの雑音に目を覚ますと、警察やら救急隊やらが俺の家をウロウロしていた。


さっきまでの事は夢じゃなかったんだ。


銀色の大きな袋のファスナーが閉められ、担架に乗って運ばれてく。


ひとつ……またひとつ運ばれていく。


俺はただその光景を静かに眺めていた。

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