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数珠つなぎ

第4章 あなたたちを助けたい

受け取った封筒には俺の名前が書かれていた。

切手は貼っておらず、裏を見ても送り主の名前は無く、封を開けると手紙が3枚入っていた。

それが誰が書いた手紙かすぐにわかった。


父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんの字。


俺は勢いよく起き上がり、手紙の文字を読み漁る。


身体の震えが止まらない。


「大丈夫?」

いつの間にか潤は背後にいて、ギュッと俺の身体を包んでくれた。


そこには自殺に至る経緯が書かれていた。


俺たちの家を含む一帯は再開発のため、土地の立ち退きを迫られていた。

金に目が眩み、立ち退きを承諾する人もいたが多くの人が反対していた。

長年、この土地で商売をしてきた。


『はい、どうぞ』って簡単に渡せるはずはない。


地区長をしていた父を中心に中止を訴えてきた。

何回か話し合いは持たれたが、平行線で解決には至らなかった。


するとあからさまな嫌がらせが始まった。


各店舗に地上げ屋という名のヤクザが店に入り浸るようになった。

モノを壊したりすることは無かったが、店でいちゃもんをつけては怒号を浴びせる。

警察に通報しても、注意に留まる。

自分たちが悪くなくても、その場にいたお客さんから噂は広まり、『ここの地区の店は危険だ』というレッテルが貼られ客足は遠のいていった。

それで心が折れ、地区を去っていく人が増えた。

それでも父ちゃんは周りを励まし、土地の受け渡しをしなかった。


そんな中、店に足しげく通ってくれてた人がいた。

近くに勤めていて、平日の昼には店にご飯を食べに来ていた。

父ちゃんもその人には心を許していて、何よりご飯を嬉しそうに食べる姿、そして「ごちそうさま」の声が唯一の支えだった。


この人のために頑張ろうって……


でも、地上げ屋は嫌がらせを止めず、状況は悪化の一途を辿っていた。

地区に留まっている人の精神もズタボロになっていた。


そしてその時を待っていかのように天使の顔をした悪魔がついに牙を剥いたんだ。

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