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数珠つなぎ

第4章 あなたたちを助けたい

父ちゃんは反対運動に参加している人達に全てを打ち明けた。

きっと父ちゃんも伝えるのが辛かったと思う。


地区長を務める自分が騙され、土地を奪われる。

こんな情けないことはない。


罵声を浴びることも覚悟してただろう。


けど待ち受けていた現実は……それより残酷だった。


皆も父ちゃんと同じ借用書を持っていた。


だだ父ちゃんと唯一、違う点があった。


ウソの借金をした時期は1ヶ月前。


『相葉さんも土地を守るためこのアイデアに乗った』

この言葉と父ちゃんの借用書を見せ、皆を信用させて騙したんだ。


そして先に契約を交わしてしまった父ちゃんだけが土地を奪われた。


アイツにとって父ちゃんは【スケープゴート】


父ちゃんの行く末を見た人たちは手のひらを返すように反対運動を止め、土地を売却して去っていった。


誰も……父ちゃんに差しのべることなく。


別に助けて欲しかったんじゃない。

何でも良かった。


ただ『言葉』が欲しかった。


長年同じ地区で商売して支え合ったのに、誰も言葉ひとつかけてくれなかった。


『さようなら』さえも。


それは土地を奪われることよりも、深く父ちゃんを傷つけたに違いない。


そして父ちゃんは初めて人を恨んだ。

どす黒い感情に支配されていった。


けど、そんな自分を何よりも父ちゃんは許せなかった。



誰よりも『人との繋がり』を大事にしてたから。



だからその気持ちをなくしてしまう前に、父ちゃんは死を選ぶことを決めたんだ。

そして母ちゃんはその話を聞いて、一緒に死ぬ道を選んだ。


ホント……どこまで仲良しなんだよ


でもなかなか死にきれなかった。


その頃、兄ちゃんも土地を取り戻そうと躍起になっていたが手詰まり状態で、精神的にも限界だった。


2人の自殺を必死に止めていたが、一緒に死ぬ道を選んでしまった。


失敗しないように両親を刺して、自分も首を吊った。

両親を殺せば俺は躊躇いなく死ねる。


両親を好きな兄ちゃんらしい理由だよ。

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