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数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

【潤side】


和也が俺と雅紀に頭を下げる。

すれ違う人たちがその光景を横目でチラチラと見てくる。

「止めて、頭をあげて。ね?」

雅紀は立ち上がり、和也の顔を覗き込みながら頭を上げさせようと肩を掴む。


お礼をを言わなきゃいけないのは俺たちの方だ。


俺と雅紀、智と和也。

それぞれ支え合って過ごしてきた。


互いに必要で……かけがえのない存在。


けど分かり合えない気持ちがある。


俺と和也は愛する人のために、この世界に飛び込んだ。

辛くないって言ったら嘘になる。


でも、恋人の前では『弱音』は言えない。



だって自分自身より恋人は辛い思いをしているから。



同じ悩みや葛藤を抱えていることを知ったのは、いつだっただろう。


あの日は特に酷かった。


吐くものはないのに、洗面所で止まらない嗚咽に耐えていた。

雅紀がここで働き始めて間もない頃で、精神的に追い詰められていたんだと思う。


「ごめんね」って泣きながらな何度も何度も雅紀は謝っていた。

だからこそ自分が頑張らなきゃいけなかった。


必死に強い自分を演じて雅紀を支えた。


久しぶりに来た初めての客に抱かれて、脆くも崩れてしまった。


そんな時、たまたま店に残っていたのが和也だった。

「大丈夫……ですか?」

いつの間にか後ろに立っていた和也が背中をゆっくりと擦ってくれた。

暫くすると不思議とあんなに辛かった吐き気は治まった。


ソファーに座る俺に和也はミネラルウォーターを差し出してくれた。

「ありがとう」と受けとると、和也は少しだけ距離を開けて隣に座った。

『何があったんですか?』って聞くこともなく、寄り添うこともない。


その優しさが俺には嬉しかった。


そして俺はポツリポツリと弱音や抱えている気持ちを話始めた。

和也は相槌を打つわけでもなく、だだ俺の話を聞くだけ。

でもそれが俺には心地よかった。

そして話終わった俺に和也は言った。



『俺も同じです』



その一言に俺は救われたんだ。

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