テキストサイズ

数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

俺たちは人の波に逆らてビルへと向かう。

薄く立ち込める煙を辿った先には重厚なドア。


やっぱり……火元はここだ。


俺はドアノブを回し、後ろに引いた。


ガチャ……

途中で止まり、ドアは開かない。


ガチャガチャ……

やっぱり開かない。


ガチャガチャガチャ……

くそっ、くそっ、くそっ!


何度やったって同じ音が繰り返されるだけ。


ドアは俺たちの侵入を許してはくれない。


「雅紀、どけっ!」

潤の言葉に俺はドアから離れた。


ガンッ……

潤はドアを蹴った。


「開けっ!」

ガンッ……


ガンッ、ガンッ、ガンッ、

「開けよ、開けよ、開けよっ!」

ドアを蹴る音と潤の叫びが重なる。


前屈みになって息を整える間に、俺はまたドアノブに手を添えた。


くっ、熱い。


反射的に離そうとする手に自身の手を重ね、ドアノブを回して何度も引いた。


ガチャガチャガチャ……

ガチャガチャガチャ……


「ゴホッ……櫻井っ、ゲホッ……出てこい!」

濃くっていく煙を吸い込んでしまったのか、息苦しくなってきた。

「ヤバいよ、逃げなきゃ」

和也が俺の手を掴んだ。

「いっ……」

「雅紀……手、見せて!」

手首を軽く捻ると俺の掌は真っ赤に腫れ上がっていた。

「雅紀は……休ん……でろ」

ゼーゼーと息をしながら潤が俺を見る。

そして少し下がると、勢いをつけてドアを蹴った。


ドンッ…

ドンッ……

ドンッ……


響く音が段々と小さく、間隔が大きくなる。


「それ以上したら、潤が倒れる」

潤を制止させようと智が腕を掴んだ。

「離せ……っ、ゲホッ」

智を振り払うと、潤自身もふらつく。



もう……限界だ。



バタバタ……

足音がこちらに近づいてくる。


「消防隊です。ここは危険です。すぐに避難して下さい!」


「雅紀……後は任せよう」

和也が俺の肩をギュッと掴む。

「潤、行こう」

智が潤の肩を掴んだ。

「逃げんな……逃げんなよ!」

潤が智に引っ張れながらドアに向かって叫ぶ。

「死ぬなんて……死ぬなんて許さない!」

俺もドアに向かって叫びながら、階段を上がっていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ