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数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

ビルの前に貼られた『立ち入り禁止』と書かれた黄色いテープ。

騒ぎを目にした人たちが野次馬化し、ビルの前を占拠してスマホで動画を撮影する。


『危ないから離れてください!』
『邪魔になるので立ち止まらないで下さい!』


野次馬を整備する警察官。

そして近づいてくる2種類のサイレンの音。

一番大きく聞こえたと同時にピタリと止まる。


バタバタと走る足音が隣を通り過ぎる。


『道を開けてください!』と警察官と消防隊員が叫ぶと、野次馬の間に道が出来た。

その道を道具を持った消防隊員はビルへと消えた。



どうしてだろう……

目の前の光景が現実に見えない。


あ、そっか。

だだ、火事だって騒いでいるだけか。


煙はさっき見えたけど、炎なんて見てない。



火事なんて……

火事なんて起こってないんだ。



「ははっ……あはは…っ」

「雅紀?」

潤が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


なんで?

そんなに俺って変かな?


「大丈夫だよ?ぷっ、あはは…っ」


ヤバい、笑いが止まんないよ。


「じゃあ……何で泣いてる?」

「えっ?」

潤が俺の頬に手を伸ばすと、指で目の下を拭った。

「何言ってるの?泣いてなんか……」

自分で目を擦ったら手の甲が濡れた。


本当はわかってる。

ここで起こってることは現実なんだ。



だけど……


だけど……



ガラガラガラ…


音と共に担架がビルの中へと入っていく。

そして運び出す時に目隠しするためにブルーシートを持った警察官がその後を追っていく。


嘘だ……


嘘だ……



「潤」

小声で恋人を呼び捨てで呼ぶ声に振り返ると、スーツを着た知った顔の人。

櫻井の逮捕に向け協力していた潤の元上客だ。

「おい、今どういう状況なんだよ!」

「潤、落ち着いて」

胸倉を掴んでいる腕を、必死に和也が引き剥がそうとしている。

「店から1人の遺体が見つかったらしい」

その言葉で俺たちの動きは止まった。


動け。

止まるな


動けぇぇぇぇ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

叫び終わると同時に俺の意識は飛んだ。

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