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数珠つなぎ

第8章 僕らは認めない

目が覚めるとやっぱり今日は訪れた。


俺にも潤にも。

そして智にも和也にも。


智と和也が用意した朝食を淡々と食べる。

部屋に響くのはテレビから聞こえるアナウンサーがニュースを読む声。

もちろん、昨日の火事を伝えることは無い。


プルルッ…プルルッ…


朝食を食べ終えたころ、潤のスマホが着信を告げる。

画面を見た瞬間、潤が眉間に皺を寄せた。

「はい」

スマホをタップし耳に当てると、そのまま寝室へと入っていった。

俺たちはただ寝室を見つめていた。

電話の主はたぶん昨日、俺たちに声をかけた潤の元上客だ。

「はい……はい……」

冷静に潤が受け答えしている声が微かに漏れ聞こえる。

「ちょっと待ってください」

そう言いながら潤が俺たちの方に来た。

「昨日のことについて、話がしたいって。智も和也も予定は……ないよな?」

智と和也は目を合わせると頷いた。

「はい、大丈夫です。あ、場所ですか?」

潤がはっとした顔をした。

「この辺で、落ち着いて話ができる場所ってない?」

潤が受話口を押さえながら、智と和也に尋ねる。

「智、昨日行った喫茶店……ダメかな?」

少し申し訳なさそうに和也が聞いた。

「あそこなら、いいと思う」

ニッコリと智が微笑むと、和也もホッとした表情を見せた。

「ねぇ、そこで……大丈夫なの?」

和也の表情から察するに思い出の場所なんじゃないかって思った。

「大丈夫。潤、電話代わって?場所伝えるから……」

「智、ありがとう」

潤がスマホを智に渡した。

「すみません。お電話代わりました。場所なんですが……」

智が場所の説明を始めた。


その瞬間、急に怖くなった。



現実に向き合うことが。



「大丈夫、大丈夫だから」

潤が俺の手をギュッと握ってくれた。


逃げちゃ、ダメなんだ。

迎えるはずのなかった今日に向き合うしかないんだ。


「じゃあ10時に……」

時計を見ると時刻は9時。


待ち合わせまで、あと1時間。


「大丈夫」

和也が開いた手をギュッと握った。

その上から智も俺の手を包む。

潤も更に力を込めて手を握った。


その温かさが俺の震えを止めてくれた。

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