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ぼっち─選択はあなたに─

第26章 黒い犬【選択8】

 アクアは悲しみを紛らわせるかのように、無言で花の苗を植え始めた。ヒカルもなんて言ったらいいのかわからず、黙々と作業をする。

 目の前には赤や白、ピンクや黄色など、色とりどりの花が咲いている。
 しかしアクアにとっては全てが灰色に見えていることだろう。

 自分もそうだった。
 自分の生きる世界に色なんてなかった。
 ずっとひとりだった。

 でも今は見える。
 それは周りが優しくて温かいから、だから自分も──。

「あのっ……」

 気づいたらアクアに声をかけていた。
 自分でもびっくりしている。

「……片思いですか?」
「えっ」

 会話がそれしか思い浮かばなかった。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がするけど、もう遅い。

「まあ、うん……片思いかな」
「すみませんっ……」
「でもね、半年前は確かに愛し合っていたのよ……」
「えっ?」
「結婚の約束もしてた──」
「えっ、どういうことですか!?」

 ヒカルは思わず立ち上がった。
 そんなヒカルを見てアクアは目を丸くする。

「びっくりした。あなた、そんな大きな声も出せるのね」

 アクアはクスッと笑った。
 そして立ち上がって大きく背伸びをする。

「どうしてこうなってしまったのか、自分でもよくわからないの。私の何が原因だったのか……彼に手紙を送っても返ってこないし、会いに行ってもはっきりと言ってくれないし……」


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