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「もちろん楽しい時はあったわよ。でも両親がいなくなってからは、毎日を生きていくのが大変だった」

　それを聞いてヒカルはハッとした。
　そういえば宿屋でレイナの家族を見ていない。

「ごめんっ……」
「いいのよ、気にしないで。うちの両親ね、私が12歳の頃に盗賊に襲われて死んじゃったの。それで宿屋をどうするか迷ってたんだけど、私一人だったから寂しくて……。バットのおじさんに頼んで宿屋で働けるようにしてもらったの。お客が来てくれれば、夜一人じゃなくなるし、一緒にご飯食べられるもの」
「……っ……」
「あ、でも料理はあまりできないから、お客は他のお店に行っちゃうんだけどね。その代わり、バットがいつも食べに来てくれるのよ」

　それを聞いて、ヒカルは胸が押し潰されそうになった。

(まさかレイナにそんな悲しい過去があったなんて……。だから討伐隊の人がシャドーに襲われて死んでしまったことにも、クロードが一人で調査に行くことにもあんなに敏感になってたんだ。なんだかんだ私の世話を焼いてくれるのも……)

「さっきね、リボンを買ったのよ」
「リボン？」

　キョトンとするヒカルの頭に、レイナは赤いリボンを結ぶ。

「ふふ、そこで見てみなさいよ」

　ヒカルは噴水の水面を覗き込んで、自分の姿を確認した。

「あ……かわいい」
「リボンがね」
「私に似合ってる！ ありがとう、レイナ！」
「今日のお礼よ」

　まるでお姉ちゃんができたみたい、とヒカルは思った。怒りっぽくて素直じゃないけど、頼りになるお姉ちゃん。