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カスミ草の花束

第1章 カスミ草の花束

「タロってさ、好きな人いる?」
 
 ハナにカレシが出来た、と就職して最初の冬に風のうわさで知った。それから僕の頭の中から子どもの頃のハナはいなくなっていた。

「……いや……」と言うと、「やっぱりね」とハナが笑う。
 
「ハナ……。どういうことだよ。『やっぱり』って……。そっちこそいるのかよ」
 
「ナイショ」
 
 ハナのピンク色の舌がペロっと覗く。

「タロ、今日、泊まってもいい? もう、遅いから……」

 心なしかナチュラルメイクのハナの頬に赤みが差している。少し酔っぱらっているんだろうか?

「いいけど……大丈夫、親とか心配するよ」と言う僕にハナは「ああ、大丈夫、だいじょうぶ……」と言ってカラカラと笑っていた。

 ハナは両方の手で髪をポニーテールにしながら、唇に咥えたゴムを手に取って器用に留めた。彼女の細くて白い項に目が釘付けになる。小学四年か五年生の頃、みんなで風呂に入った時のことを思い出した。

「あ、小学生の時……何年生だっけ……一緒にお風呂に入ったことがあったよね。 覚えてる、タロ?」

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