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カスミ草の花束

第1章 カスミ草の花束

 彼女の温もりを感じていた。僕の方に身体が向くのを感じていた。
 
「ハナ……?」
 
「うん……」
 
「僕ら、男と女だよ」
 
「知ってるよ……そんなこと」
 
 ハナの柔らかい身体が更に近づく。身体にキュっと力が入った。
 
「ねえ、タロ……。覚えている? 中学校の卒園式……」
 
「うん、覚えてる。ハナに花束をもらったこと」
 
 忘れるはずが無かった。卒園式が終わって帰る途中ハナは僕にカスミ草の花束をくれたこと。
 
「知ってる? カスミ草の花言葉……」
 
「うん、〈幸福〉とか〈清らか〉でしょ。親戚のおねえさんが言ってた」
 
 背中でハナが笑う声が聞こえた。
 
「タロ、キスしようか」
 
 ハナの熱い息が首筋に掛かる。全身に鳥肌が立ちそうだった。
 
「だ、ダメだよ。僕らただの、幼なじみじゃ……」
 
 僕は慌てて飛び起きた。彼氏がいるのが分かっていて、ハナとそのような関係なんかなれる訳がない。
 
「よかった。タロ、あの時から全然変わってないんだね」
 
「えっ……?」
 
「カスミ草の花言葉、〈イノセンス〉とも言うんだって……」
 
「僕は、ただ彼氏がいるハナとはキスしちゃいけないって……」
 
「タロ……?」
 
 いつの間にかハナは僕を覗き込んでいた。ふっくらと柔らかそうなさくら色の唇がアップになる。
 
「ハナ……」
 
 ミントの匂いが近づいて、柔らかい唇が重なる。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 ハナの唇は震えていた。
 
 僕の身体も震えていた。
 
 夢中でハナを抱いた。柔らかい彼女のそこにあてがう。
 
「タロ……痛っ」
 
 自分の唇を手のひらで覆いながら、ハナの身体がしなやかに反る。彼女の額に汗が滲んでいた。
 
「だ、大丈夫……?」
 
 僕の身体はハナに熔けていった。辛そうに痛がるハナを気にしながらゆっくり動く。

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