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カトレアの咲く季節

第10章 深夜の紅

 ぞくりと身体が震えた。
 アレクは無意識のうちに毛布を肩まで引っ張り上げ、薄目を開ける。

 ユナの容態を見守るため、交代で眠ろうと提案したのはライだった。
 二人きりの質素な晩餐を終えても嵐はおさまる気配もなく、呼吸が落ち着いているからと大人を呼ぶことは諦めて寝支度を整えた。

 先に横になったのはアレクの方だ。
 朝から祭りのためにはしゃいでいたからか、食事を終えたあたりから眠くて仕方がなかったのだ。

 日が見えないから時間の感覚が曖昧で、もう眠る時間なのかもわからない。
 けれどライが当たり前のように用意してくれた毛布の魅力に逆らえず、アレクは椅子を並べて眠りについた。

 それが、少し前の事だろうと思う。
 夢もみないほど深く眠っていたのに目が覚めたのは、室内に満ちている強烈な冷気のせいだ。

 毛布をさらに引き上げ、体を丸める。
 室内はしんと静まり返っていて、どうやらアレクが寝ている間に嵐は去ったらしかった。高いところにある明かり取りの窓から、姿は見えないけれど月明かりが差し込んでいる。

「ライ……?」
 ぼんやりした頭で、呟く。その声は掠れていて少しも響かなかった。
 まだ、交代の時間には早いだろうか。
 確かめようとアレクがのそりと上体を起こしたそのとき。

 寝台に横たわるユナの横顔と、それに覆いかぶさるような人影が目に飛び込んできた。

「ライ!」
 今度の呼びかけはそれなりに声が出た。
 跳ね除けた毛布から何かが落ちたのか、コロンと床が鳴る。
 それらの音に、人影がゆらりとアレクを振り返る。

「……君、もう起きたのかい」

 それは確かに、ライだった。
 月明かりだけでもやはり輝くような金髪と、今はその色を認識できない澄んだ相貌。芝居がかった口調に合わせて両手を広げると、いつ羽織ったのか、艶めいた黒のマントがぱさりと揺れた。

「何、してんだよ」
 その顔は、その声は、確かにライのものなのに。
 アレクはすっかり冷えた肩を抱いて、まじまじと彼を見る。
 本当に、こいつは、ライなのか?
 そんな馬鹿げた疑問が浮かぶ。

「何って、そうだなぁ」
 ライはアレクに近寄ろうとして、つとしゃがんだ。
 床から何かを拾い上げるとテーブルに乗せる。それは薄いハンカチに包まれていて、中身はアレクにはわからない。

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