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カトレアの咲く季節

第2章 アレクとユナ

 物心ついた時から、アレクに母はいなかった。アレクは父と二人、父の友人夫婦の家に居候していた。
 そこの一人娘がユナだ。

 アレクの五つ上であるユナは、幼い頃からよく笑い、よく喋る愛らしい娘で、アレクのことを実の弟のように可愛がってくれた。
 アレクも、どこへ行くにも邪険にせず、必ず連れて歩いてくれるユナのことが大好きだった。

 アレクが10になる二年前、出稼ぎに行った父が馬車に轢かれて亡くなった。身寄りのないアレクはそのままユナの両親に引き取られることとなった。

 15になっていたユナは花屋で住み込みで働き始め、顔を合わせる機会は減ったが、アレクは変わらずにユナを慕っていた。

「花屋の仕事って、楽しい?」
 商店街にお使いに来ると、アレクはいつも最初に花屋に寄った。きらきらと笑うユナに会うために。

「えぇ、とっても楽しいわ」
 色とりどりの花に囲まれたユナは家にいたときよりも一層美しく、アレクはそんなユナが自慢でもあった。

 花屋の看板娘。街一番の美しさ。
 そんなユナを評する声を聞くたびに、アレクは姉が褒められたように嬉しく、鼻が高かったものだ。

「これ、練習で作った花輪なの。お父さんとお母さんに持って行ってくれる?」

 もともと料理上手で器用だったユナは、花を見栄え良く生けたりブーケを作ったりするのが得意になった。収穫祭を飾る花輪作りを一手に引き受けるようになるまで、そう時間はかからなかった。

「もちろん。持って行くよ」
「ありがとう。それからこれはアレクに」
 ユナはもうひとつ、小さなコサージュを取り出してアレクの胸につけてくれた。

「フリージアの花言葉は、親愛なるあなた、よ」
 間近に顔を合わせて囁かれ、どきりとした。
 にこりと微笑むユナに、姉とは違う思いで見惚れたのはそのときが最初だ。

 いずれは自分がユナを守る。
 そんな思いの元、アレクは度々ユナの花屋に顔を出しては、ユナを連れて行こうとする者が現れないか密かに見張っていたつもりだった。

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