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カトレアの咲く季節

第4章 収穫祭・朝

 翌日はよく晴れた。
 雲ひとつない青空の下、アレクは花屋までの道をひた走る。どこそこに飾られたカトレアと、広場から漂う美味しそうな匂いがアレクの心を躍らせる。

 ピカピカに磨かれた石畳を抜けると、ユナは花屋の店先で、祭り用の裾の長い衣装を着て待っていた。
「まぁアレク、ずいぶん早かったじゃない」
「ユナこそ、中で待ってればいいのに」

「だってあんまり楽しみで」
 少女のように笑うユナはやはり綺麗だと、アレクは走ってきたせいだけでなく高鳴る心臓とともに思った。

 店の中から手を振るライにも、今日ばかりは機嫌よく挨拶ができる。
「よう、ライ。やっぱりお前は行かないの?」
「ああ。あんまりお日様が眩しいからね。雨なら少しは出歩けたかもしれないが」
「よせよ、せっかくの収穫祭だ。雨神さまよりお天道様の方が似合ってる」

 天候にケチなどつけて、神様が怒っては大変だとアレクは空を窺った。しかしそこは変わらず雲など見当たらず、ホッと胸を撫で下ろした。
 高いところにある白色は、家や店の屋根から飛ばされた風船ばかりだ。

「それじゃあ、行ってくるわね」
「なんか土産買ってきてやろうか?」
 アレクが訊くと、ライは曖昧に微笑んで首を傾げた。サラサラの金髪が、重力に従って揺れる。

「祭りで見つけた、一番美しいものを持ってきて」
「何だそれ」
 意味がわからず、アレクは眉を寄せる。
 ライの、朝の陽光よりも光輝く髪は、その肌の白さを一層強調するようだった。未だ見慣れない碧眼は、まるでガラス玉のように見える。

「アレク? 行きましょう」
 細かな刺繍の施された衣装を揺らして、ユナが戸口から声をかけてきた。裾一面に入れられたそれは、収穫の女神フレンにあやかった、蔓葡萄の文様だ。

 家を守る女が、毎年家族全員の衣装に刺繍を入れる。ここにはそんな習わしがある。
 ユナは働くようになってから、自分で刺繍をするようになった。

「今行く!」
 同じ文様が入ったベストの裾を直して、アレクは駆ける勢いで戸口へと向かう。

「じゃな、ライ」
「楽しんで」
 ひらり、手を振ってライは奥の部屋へと引っ込んだ。花屋の戸は、その木の重さで自然と閉まる。

「さ、行きましょ」
 差し出された手をアレクが握ると、ユナは踊るように歩き出した。

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