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ダブル不倫 〜騙し、騙され

第5章 5

《《畠山》》がツルリと抜け出る。
 
 ――あ、えっ……。
 
 優子の時間が止まっていた。優子はドアの方に目をやる。ぼんやりとした優子の目の中に修一が映った。
 
「お前ら、何やってんだよ!」
 
 優子はコタツ布団の中に潜り込んだ。
 
「優子、起きろよ」
 
 髪を鷲掴みされた。頭皮が剥がされるのではないかという痛みに、優子は操り人形のように立ち上がる。捲れて上がっていたスカートが空気を含んで優子の膝を隠した。
 
「コイツ……」
 
 修一は優子に手を振り上げる。体格のよい修一の身体が更に大きく見えた。
 
「キャっ……」
 
 優子は目を閉じ、首をすくめる。修一の手が振り下ろされる。
 
「山瀬さん、優子さんを叩かないで!」と畠山が言ったあと、「悪いのは……悪いのは僕なんです! 僕が優子さんの相談にのっていて、優子さんの弱みにつけ込んで……だから、ごめんなさい。ごめんなさい」
 
 畠山は床に頭を擦りつけた。
 
 修一の蹴りが畠山に飛んだ。
 
 畠山の身体がコタツの上に吹き飛ぶ。コタツの脚が音を立てて折れた。
 
「違うのっ、私があなたの事で相談していて……畠山さん、親切に聞いてくれて……。私が……私が畠山さんをそそのかして……」
 
「なんだよ! お前の浮気を俺のせいにするのか?」
 
 :
 
 優子はポケットからボイスレコーダーを出した。
 
「あなた、これ……」
 
 優子の指が〈再生〉と書かれたボタンを押し、〈早送り〉を押す。
 
『ハイ、半年……んっ……ス、スーツシワになっちゃう』
 
 また、にちゃ、ちゅぱっ、という音、のあとガサガサと音が遠ざかる。
 
 また、〈早送り〉ボタンを押した。
 
『二人のときは、アカネって呼んで……。山瀬先生、座って……』
 
 ギイッという音がして、チィと、小さな音が聞こえた。
 
『ああ、アカネっ……』
 
『……修一さん……んん……ピチャピチャ……』
 
 優子の指が〈停止〉ボタンを押した。

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