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ダブル不倫 〜騙し、騙され

第2章 2

 チッ、チッ、チッ……。壁掛け時計の秒を刻む音で、優子は目を開いた。顔を上げる。ドレッサーの鏡に腫れぼったい自分の顔があった。床には優子の蜂蜜を纏ったロータが転がっている。
 
 ――アノあと、寝ちゃったんだ。
 
 優子は何も着けていない下半身に目をやった。
 
 午前四時三十七分。カーテンから見える外はまだ暗い。時々、通るバイクの音は新聞配達だ。
 
 ベッドに目をやる。修一はスヤスヤと眠っている。アラームの時間は六時だ。修一が目を覚ます時間には少し早すぎる。
 
 優子は大判のタオルで身体に纏い、バスルームに入った。
 
「ふうっ……」
 
 優子がシャワーを終えると、ベッドルームのドアが開いた。
 
 五時四十五分。
 
 まだ、目覚まし時計は鳴っていないはずだ。トイレから出た修一はペタペタとバスルームに入った。
 
 ――修一さんが朝からシャワー?
 
 修一は夜に風呂に入ることや、服を脱ぐことさえ面倒な性格だ。スラックスのときはともかく、ジャージ姿のときなどジャージ下、トランクス、靴下と、それはまるで昆虫の脱皮のようだ。
 
 優子はベッドルームを覗いた。いつも枕元に置いてある彼のスマートフォンがなかった。修一はスマートフォンに頓着しないのだが、その日は違った。
 
 ――スマホ、出掛けるときによく忘れるのに……。洗面所に?
 
 優子は朝食の準備のあと、八歳になる凛華の長い髪を編んでいた。
 
「パパ、いつもはカラスの行水なのに、ねえママ?」
 
 凛華が優子の口まねをして呟いた。
 
「そうね。パパは、お風呂で何してるんでしょう、ねえ?」
 
「……ねえ?」
 
 と、二人で笑った。
 
 ――……ったく、どこを洗ってんだか……。
 
 結局、修一はシャワールームに入ってから、四十分近く出てこなかった。
 
 :
 
 ブラックコーヒー、野菜サラダ、目玉焼きに粗挽きソーセージと食パン。これが毎日の朝食メニューだ。
 
「ママ、パパの朝ごはんは……?」
 
 修一のランチプレートにはブラックコーヒーだけだった。
 
「ああ、パパ、今日は朝ごはん、あまり欲しくないんだって……。お腹空くのにね?」
 
 その日、修一は朝食を摂らずに家を出た。

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