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ダブル不倫 〜騙し、騙され

第3章 3

 数日後、インターホンの呼び出し音がなった。午後一時十七分。確か、娘の凛華が帰宅する時間だ。優子は玄関の錠を開けに出た。
 
「ああ……おかえ……り……、えっ……?」
 
 玄関には若い男性が立っていた。ジーンズに白のティシャツが似合う小綺麗な男性だ。小柄だが肩幅があるように見える。大学生だろうか、小さなグラスが似合う知的な青年だ。
 
 ――まあ、かわいい。弟にしちゃいたい。一人暮らしかしら……。
 
「あ、こんにちは……、僕、隣に越してきた、畠山と言います。あ、これ……」
 
 優子より一廻りは年下であろう畠山は、ショートカットの自分の頭を撫でながら、〈ご挨拶〉と書かれた熨斗がついた小箱を優子に手渡した。
 
「ああ、わざわざご丁寧に……。何か困ったことがあったら、何でも聞いてね」
 
 優子は畠山が帰ったあと、ドレッサーの前に座り鏡を覗き込んだ。笑顔を作る。ドレッサーに入れてあった明るめの口紅を引いてみた。それは通信販売で手に入れた物だが、年齢の割に派手すぎると躊躇っていたものだ。ペーパーで口紅のついた唇を押さえた。そこにふっくらとプリントされた自分の唇があった。
 
 ――この唇を畠山さんはどう思うだろうか。
 
 三時過ぎ、娘の凛華が学校から帰ってきた。
 
「ママ、お腹空いたあ。あれ……?」
 
 凛華は洗面所に入り、手を洗っている。
 
「はい、オヤツ……」
 
 優子は、プリンを小皿に移し、缶詰めのサクランボを飾った。
 
「ママ……口紅、変えた? かわいいっ。ママ、違う人みたい」
 
「正解っ! やっぱり凛華は鋭いねえ」
 
 ――修一さんは、気がつくのかしら……。
 
 午後十時頃、修一が帰ってきた。その手はなぜか首すじにあった。その顔は少し辛そうに見えた。
 
「修一さん、首……どうしたの?」
 
「ああ、少し捻っちゃった……」
 
「じゃあ、湿布で早く冷やさなきゃ」
 
「うん、でも少し良くなったから……」
 
「無理しないで……」と、言ったあと優子は「あなた……?」と修一に呼びかける。
 
 ――修一さん、私を見て。真っ直ぐに見て……。「口紅変えた?」って言ってよ。

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