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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

良夫は、水割りを一気に飲み干すと、囁くような声で、

「ちょっと、それはアカンて……警察に言うた方が早いんちゃうの?」

「警察に言っても、俺の中の憤激がおさまらないんです」

「ふんげきってなんだ?」

「いや、あの……とにかく、警察はあてにならない。だから、俺の手で見付けたいんです」

「てか、あんた格闘家だろ? 相手がヤクザって言っても、手を出したらヤバいんちゃうの?」

「暴力には暴力。それに、俺は引退して今はただの素人だ」

「いや、素人だとしてもダメっしょ。で、暴力とかヤクザ絡みのことで引っ張らんでくれよ……そんなんとは、まったくの無縁で生きてきたのに」と良夫は、柿ピーに手を伸ばす。

「いや、俺は田中さんとなら間違いないと思ったんです。場合によっては、俺よりすごいっすよ」

二郎はそう言って、梅サワーのグラスに口をつける。

「そんな、無茶ぶりは勘弁してえな……」と言って良夫は立ち上がり、スーツを着た男性店員に、「トイレ借りていい?」と聞いた。

男性は静かな口調で、「店内にトイレは無いんですよ。店を出て右側に出ればあります。案内します」と、良夫と一緒に店を出た。

「トイレくらい一人で大丈夫やで」と良夫。

男性は「いえ、以前そう言って支払わずに逃げた方がいますので、入り口までお連れいたします」と良夫の真横にピッタリとついた。

トイレまでは、10秒もかからない距離だったが、良夫には長く感じた。

小便器で用を足す。

出入り口の前には、男性が立っている。

「やりにくいな」

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