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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

鈴がドアを開けると、女性が、「田中さーん」と声をかけてきた。

「あの、良夫はまだ帰っておりませんが……」と鈴が言うと、

「あら、田中さんのお母様ですか? 私、このアパートの管理人をしております」

女性は、管理人のおばちゃんだった。

「あ、そうでしたか。いつもお世話になっております。私は田中良夫の叔母でございます。甥がだらしない生活をしていないかが心配で、たまにこうして見に来るんですよ」

「あら、そうでしたか。今日は火災報知器の点検で、田中さんが家にいる時間にと思って来たのですが、大丈夫ですか?」

「火災報知器の点検ですか」と鈴は、こたつの上にある白い紙を何気なく手に取った。それには、点検と日時のお知らせが書かれていた。

おそらく、良夫は見ていないだろう。

管理人の隣にいる男性の腕には、消防局の腕章が見られ、火災報知機を点検する支持棒がその手にあった。

鈴は快く、「どうぞ」と招き入れた。

「失礼します」と男性は中に入るが、全開になった窓から入りこむ冷気に、身を縮ませる。

鈴は窓を示し、「ごめんなさいね、換気しないと炊事場の排水溝から匂いが出ていたもので」と申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、簡単に点検だけして出ますので」と消防局の男性は、手短に点検をはじめる。

鈴と管理人は、点検をしている間、寒さが続くだの、血圧が上がって大変だのと話が弾んでいる。

点検が終わり、男性が玄関にいる二人に話しかけようとすると、足でなにかを蹴飛ばしたような気がした。

「ん?」

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