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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

支払いを済ませると、良夫と二郎は店を出た。

大きなため息をついて、項垂れる二郎は、横目で良夫を見た。

「間違いなく、ぼったくりの店だと思って……向こうが無理な金額言ってきてややこしいことになれば、俺、暴れようと考えたんだけどなぁ」

「えっ!?」

「ここ、河原組の管理するビルなんだ」

「えええーーっ!!」

良夫は思わず、声を上げた。

「ちょっと待って……僕に相談するのに、飲みながら話するためにここに来たんだよね。知ってて危ない橋渡りにきたの?」

「それと同時に探りに来たんだ。もしものことが起きたら田中さんも一緒だし、二人でやりゃあなんとかなると思った」

「ちょっとちょっとちょっと、マジか!?」

良夫は無事に店から出れたことに安心しつつも、急に背筋が寒くなった。

二郎は、店の扉に目を向ける。

「田中さんがトイレに行ってる間、あの店の男が、俺に気付きやがった。やるなら手っ取り早い方がいいなと思って、会計してもらったんだ」

「ほんまや、値段が普通で怒鳴るからどないしたんかなと思ったわ」

「おかしいんだよ。あそこは、ぼったくる所だと聞いたんだが……」

そんな二人に、靴音をたてながら近付く者がいた。

「そんな有名なアスリートさんには、失礼なことはいたしまへん」

太くて高い声が、コンクリートの壁に響く。

二郎はその声の方に、目を向けた。

革のコートに身を包んだ、恰幅のいい中年男性が、杖を片手に二人を見ている。後ろには、若い男が三人、睨み付けるようにこちらを見ていた。

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