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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

田原が持っているピストルは、やや銃口が長い。これは、ピストルの破裂音を抑えるサイレンサーを取り付けたものだ。

良夫は左手首を押さえ、「なにが起こっただぁぁ!?」と声を裏返す。

二郎は田原を睨みつけ、「やつら、マジかよ……」と、拳を握り締める。

幸いにも、玉は良夫の左手首にはめられたブレスレットに当たり、跳ね返って落ちていった。

「なんのつもりだ!」と二郎は叫ぶ。

田原はピストルを構えながら、歩き出す。

「何に当たったかはわかりまへんが、あんさん運がよろしいですな。しかし、何度も運は続きませんで」

二郎の5メートル先に、田原は立ち止まる。

偶然にも街灯が、スポットライトのように、二人を照らしていた。

二郎の額に、汗がにじむ。

「なんだよ、自分の立場が悪くなれば、武器を向けるってか。ヤクザって、そんな物を当てにしなけりゃ、なにも出来ないのかよ」

「場合によっては、卑怯もわしらのやり方ですわ。まあ、これだけ言うときます。あんたがいいてる娘さんのことは、ほんまに知りまへん。ただ、うちらの裏の稼業に首を突っ込んでもうたら困るさかいな」

「それで始末するってことか。やってる事がクズすぎるじゃねえか」

「それが極道ですからな」

「極道だ? あんたら、極道の意味わかってんのかよ。極道てのは、仏教用語で仏の道を極めた者って意味があんだよ、高僧に対して極道者とかいい意味を示してんだ。どこがどう極道なんだ?」

「弱いものを助け、強い者を挫くって言うのがありますな。それを極道者って呼んだりもします。わしは、強いあんたに銃口を向けとりますな。これ、すなわち極道のやり方です」

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