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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

黒いスウェット姿の、角刈りの男が、「大変や、医者よんでくれ」と腰を下ろす田原の周りにいる男に声をかける。

「ど、どうした?」と田原が振り返る。

スウェットの男は、座り込む組長の状態に驚くも、「どないしはったんですか組長! なんか襲撃があったんすか!? 上でも、一人背中撃たれてえらいことなっとるんすわ 」

どうやら、最初に弾かれた一発目が、上の階に飛び、窓に穴を空け、ある一室にいた男の背中を貫いたようだ。

「なんやと!?」と痛みを忘れたかのように、田原は声を上げる。

状況に怯えた良夫が、「じゃあ、救急車呼びます……」と携帯を出す。

「いや、待った、かけるんじゃねぇ!」と田原についていた若い衆の一人が良夫に詰め寄る。

「お前が呼ばなくても、うちが世話になっとる医者がおるんや。しゃしゃり出るな」

救急車を呼ばれると、状況から間違いなく警察の耳に入る。病院は病院でも表向きは町医者で、裏では暴力団を中心に診る自称ヤクザ専門医もいる……らしい。

良夫は身を縮こませ、「襲撃にあったんなら、警察に連絡しないと……」

「空気読まんかい! 今は、医者も警察もいらんのじゃい!!」と若い衆が言うと、「いや、医者はいるじゃろ」と田原が言った。

組員の一人が、御用達としている病院に電話を入れる。田原はグッと痛みを堪え、二郎を睨みつけた。

「なんぼ粘っても、あんたが言う女はここにはおらん。ヤクさばいてる連中もおらん。大人しゅう帰りなはれ」

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