テキストサイズ

お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

二郎は下唇を軽くかむと、ビルの上の窓ガラスを見た。そして、良夫の方に目を向けた。

なにか違和感を感じる……と目元で呟くが、その決定的な理由がわからない。

本当に、彼女の本間海奈はここにはいないのか?

やつらの言うことを信用していいのだろうか?

大阪を牛耳る暴力団を相手にして、自業自得とはいえ組長はケガを負ってしまった。

向こうもこのまま、自分を見逃せるわけにはいかないはずだ。

隣では、お面をつけた良夫が体育座りをしている。

お面をつけた良夫の力は本物だろうか?

ただの偶然や奇跡をものにする力があるのだろうか?

すると、一匹の犬が駆け寄ってくるのが見えた。

かと思えば、突然、黒いスウェットの男にむかって激しく吠えだした。

「うわっ! なんだこの犬は」

やたらとスウェットの男に、牙を剥き出しにしながら、時には服を噛み付いたりもする。

あまりの勢いに他の者も、追い払おうとはするが、牙を剥き出しにしながら吠える犬に手を出せないでいた。

この犬は、数分前に、良夫にお面を運んできたリックだった。

リックは、やたらと黒いスウェットの男ばかりを狙って吠える。

妙だな……と二郎は、顔をしかめる。

良夫は犬を指差して、二郎に言った。

「あの犬、見たことあるわ。確かね、元麻薬犬だったんだよ」

「えっ!」

二郎の目の色が変わった。

「それ、本当ですか!?」

「うん、なんかホームレスっぽいおっちゃんが放し飼いにしてるやつやで」

二郎は、黒いスウェットの男の胸ぐらを掴んだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ