不埒に淫らで背徳な恋
第5章 【贖罪することが救いなのでしょうか?】
「今、ここで私を犯したら離婚するから」
「えっ…!?」
怯んだすきに部屋を出た。
荷物まとめて家を出たのは昨日のこと。
実家にも会社にも来ないでと捨て台詞。
事実上の別居に至ったわけだ。
「ちょっとの間かくまって」と結婚してから初めて両親を頼った。
父は銀行マンで母も受付をしていて、いわゆる職場恋愛で結婚した仲だ。
どちらも地方銀行だけどね。
まさかの出戻り!?と心配させて申し訳ないけど近々そうなるかも知れない。
離婚したい旨は伝えた。
二人とも私の味方をしてくれているが、不倫真っ只中だということはまだ言えずに居た。
というわけで実家から会社に通ってる事態であります。
指輪は……まだしてるけど。
変に噂が立つのも面倒だし。
妙に皆、勘がいいから厄介だ。
朝から鳴りっぱなしの携帯は全部稜ちゃんからだ。
着拒にしたら本気で会社まで来そうな勢いなので(要件はメールで伝えて)と送る否やメール音の嵐で疲れる。
帰って来て欲しい、話し合おう…ばかり。
別居の意味わかってないよね。
どうにかして繋ぎ止めたい相手の気持ちとは裏腹にどんどん加速する私の離れていく気持ち。
どうしようもないな。
自分の気持ちに嘘はつけない。
どうやって離れようかな。
そればかり考えてる。
本当、最低だよね……私。
小山社長との最終打ち合わせ兼食事会。
案の定、同席させた佐野くんを見て驚いている。
ちゃんと説明して納得していただいたけどこれはまた次がありそうで気を抜けない。
めちゃくちゃ憧れられてる佐野くんを邪険には扱えないよね。
「俺が口説きにかかってるからですか?相変わらずガードが固いな〜結婚されてから尚更だ」と耳打ちしてくる小山社長。
“結婚”というワードはこんな時にしか役に立たないけどね。
あの屈託のない笑顔で程よく質問を投げかけてくれている。
仕方なく答える小山社長も段々と悪い気がしなくなってきたみたい。
佐野くんにして正解だったな。
「だったら今度うちの会社見に来たらいいよ、案内くらいはするさ」だってさ。
間を取り持って煙たがられてる存在がいつの間にか気に入られてるなんてさすがね。
めっちゃ喜んでるし、話弾んでる。
早速日程調整してるし。