不埒に淫らで背徳な恋
第5章 【贖罪することが救いなのでしょうか?】
マンションで出くわしたのはタイミング悪いと思ったが逆に良かったかも。
最後の挨拶ちゃんと出来たから。
あーぁ、啖呵切っちゃったから素直に認めてくれないだろうな……離婚。
早速お義母さんの入れ知恵入るだろうし。
全然冷静になれてないじゃん。
子づくりの話になるとこれだ。
成長してない……私。
今夜、会う頃には先に耳に入ってる感じか。
まともに聞き入れるわけないよね。
時期ずらす…?
でももう置いてきた。
どのみち打ち明けるなら早い方が良い。
もうお義母さんに振り回されるのは嫌だ。
時間ギリギリで出社した私に皆が驚いている。
服は途中で買い替えたしメイクもし直した。
濡れた前髪も乾いてきたはずだけど…?
「チーフ、何かあったんですか?」
え…?
後輩のみなみちゃんに言われてドキッとする。
デスクに座るまで凄く険しい顔してたみたい。
いつも通りにしてたつもりが出来てなかった。
部長と佐野くんが居なくて良かった。
「いや、大丈夫」
精一杯の笑顔も今日は見透かされている気がする。
こんなことで動揺してはいけない。
わかっているのに無性に苛立ってしまう。
さっきのお義母さんの顔が頭から離れない。
どんな顔して仕事をこなしたのか正直覚えていない。
夕方になって取引先から帰社した佐野くんにも上手く笑えてないんだろうな。
買って来た珈琲を置かれて初めて目が合った。
「休憩、しませんか?」
こういう間の入り方は相変わらず上手だね。
重い腰を上げソファー席へ移動する。
多くを語らなくても空気をよんでくれる雰囲気。
2つ3つ仕事の報告を受けて、最後は私にだけ聞こえるトーンで。
「あと、全部一人で抱え込まないでください……僕も居ますから」
「うん……」
泣かないよう無理やり笑う。
「何時でもいいんでまた連絡ください」
小指を絡めてきたのをとっさに立ち上がり離れる。
「珈琲ありがとう」
今は甘えるわけにはいかない。
自分で撒いた種だ。
幸い外回りは今日はない。
デスクワークをひたすら片付けて風のように退社する。
ダメだ……会社に居ても周りに気を遣わせてしまう。
携帯を取り出しそそくさにかけた。