不埒に淫らで背徳な恋
第1章 【心の歪み、気付いてる?】
「やりにくいけど2人じゃなきゃこんなこと出来ないでしょ?楽しくないですか?アイスとか賭けるの」
「ちょ、佐野くんもう少し腕の力抜いて…1、2の3…!振って!」
当たったけど全然飛んでない。
話してる余裕ないよ。
周りの目とか気にしてられないくらい本気モード入ってるから。
幸い、他の利用者はほとんど居ない時間帯だからスイッチ入っちゃった。
「だからもう、1人で来ないでください…」
「え…?」
「これから気分転換したくなったら僕誘ってくださいね?僕のこと、思い出してください」
背中越しに合わす視線。
風と共に通り過ぎたボールはパン…!と音を立てフェンスに当たって落ちた。
私の耳が彼の声だけを拾う。
この距離はヤバい…!
心臓がうるさいくらい鳴ってる。
言われなくてもこんな状況、忘れられるわけないでしょ?
でもね、この私が年下……しかも新入社員に惑わされるとか有り得ない話なの。
「で、どっちの奢り?これだけ邪魔してるんだからホームラン打てたら佐野くんが奢ってよね?」
フフン…と挑発したら白い歯を見せてニッと笑う。
「勿論です」
「ったく……一球無駄にしちゃったじゃない」
もうヤケクソだ。
こんなハンデ、楽しむ他ないでしょうよ。
掛け声と共に振るけど、そもそも私の手の上に彼の手があるから不利なのか。
持ち替えて上から握る形で構えてみた。
「佐野くん、ボールよく見て……来た!」
大きく振って当てにいく。
タイミングはバッチリ…!
真っすぐ狙った場所へ……弧を描いてボールはホームランパネルに当たった。
よし…!90キロだから当然でしょ。
「凄っ…!本当に当てちゃった…」
時計を見たらもう会社に戻る時間。
買ったアイスを持ちながら車に乗り込む。
ケラケラ笑い転げたのも久しぶり。
棒アイスを食べる彼の頬に冷たい缶コーヒーを当てた。
「わっ、冷た…!」
「ホームラン賞で貰った〜あげる」
びっくりした顔、面白い。
今のはズルいっすよ〜!って最高の笑顔だよね。