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不埒に淫らで背徳な恋

第1章 【心の歪み、気付いてる?】





「ヤベ、垂れてきた」




アイス溶けてる?
ダッシュボードにあるウェットティッシュを取ろうと手を伸ばしたら届きそうで届かなかった。
あいにく佐野くんは両手塞がってる。




少し乗り出して素早く取るとポタッとバニラアイスクリームがネクタイの先端部分に垂れてしまった。




「あ……」




「え?溶けてる溶けてる…早く食べて」




「わ、すみません…」




カバンから取り出したシミ抜きセット。
まさかの用意周到ぶりに呆気にとられてる…?
席の間にある肘置きの上にネクタイの先端部分を乗せて付着したシミを洗剤を使って浮き上がらせる。




「ちょっとの間動かないでね?」




「こんなことも出来ちゃうなんて、チーフ……どれだけ出来た人なんですか」




「たまたま持ってただけだよ、前に自分もやっちゃった時があって…こういうのって時間との勝負だからさ?付着してすぐなら大抵のモノは落ちる」




私は運転するからパピコタイプのアイスをチョイスした。
すぐ食べ終えたから良かったけど、シミについて熱く語ってたらクスクス笑われた。




「本当、チーフは色んな顔持ってますね?何もかも一生懸命過ぎて…やっぱり目が離せません」




「え…?」




顔を上げれば近いことくらいわかっているはずなのに引き寄せられてしまう。




「少しは気が晴れましたか…?」




胸の奥がキュン…とするような表情。
真っすぐ過ぎる眼差しが動けなくする。




「今日は…チーフにとって忘れられない日になれましたか?」




温かい陽だまりみたいに包み込まないで。
夕日が黒い髪を明るく照らす。
見つめ合ったままの2人。




「バッティングセンターが頭に浮かんだら僕を思い出してください……一緒にホームラン打ったこと、笑い合ったこと、一緒にアイスを食べたこと…思い出してください」




心地良い声のトーンが私を麻痺させてるの…?




「最後の最後でこんなドジしちゃって迷惑かけたことも忘れないでくれたら嬉しいです」




「こんなの……迷惑じゃないよ」




やっとネクタイに視線を落とせた。
携帯用のドライヤーで乾かす。









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