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不埒に淫らで背徳な恋

第1章 【心の歪み、気付いてる?】





「ありがとうございます」




完全に綺麗になったネクタイを見ながら嬉しそうに微笑んでいる。
静かに動き出した車内で動揺してることがバレないように報告メールを打つよう指示した。




忘れるはずがない。




こんな一瞬で、戸惑うくらい乱してくる。




忘れてた熱い気持ち……再燃させないで。




心の鍵……簡単にこじ開けないでよ。




お願いだから、一線引かせて。




女にさせないで。






予定通り部下を帰らせて自分も定時で退社する。




佐野くんのお陰で心は晴れたけど、今からが憂鬱だ。
なかなか溝は埋まらない。
所詮、夫婦は他人だ。
補い合えないこともある。




他人以上に他人になっちゃったら……?
素直になれなくて……妥協も出来なくて……
一緒に居るのが苦痛になったら……?




私、稜ちゃんの前でちゃんと笑えてる……?




もう少し時間が経てば何か変化があるのかな……?
私たち、あの頃に戻れるのかな……?




待ち合わせ場所に着くともう稜ちゃんは立っていた。
改札を通る私を見つけては真っすぐ見据えてる。





「瑠香、お疲れさま」




「待った…?」




「いや、俺もさっき着いたとこだから」




帰宅ラッシュ時とあって人が多く行き交う改札前。
自然に手を取られ歩き出す。
朝のように咄嗟に避けてしまうのはさすがに申し訳ない。
いつまでも歩み寄らないわけにもいかないよね。




会話がなくてもずっと繋いでる手がちゃんと会話出来てた頃もあったな……
伝わってくる体温が心地良かった。
言葉足らずでも全然構わなかったよ…?
好きが溢れてた……




でも今は……?





繋がってる手からは何も感じない。
ただ無機質に歩いてる。
こういうの、しなくちゃ駄目…?
話したいなら話してよ。
このまま家に帰って無言で過ごすの?
それともまた平行線な話でもする?




私の気持ちは一体どこに置いて来ちゃったんだろう…?




駅を抜けて住宅街に入ったら人は疎らになる。




今までこんなことはなかったけど
自然とやってのけちゃうのはどうしようもないこと。
自分から手を離した。
触れ合うことが苦しく感じた。
立ち止まる稜ちゃんを横目に一人で先を行く。








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