ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜
第25章 退院
五条先生は大きなソファーに座って、スマホを見てる。
わたしはどうしていいかわからなくて、じーっと立ったまま五条先生を見てると、
「何突っ立ってんの。ひな、こっちおいで。」
と、ソファーに座る五条先生が自分の隣をぽんぽんと叩く。
ひな…
病院にいる間、五条先生には名前すらあまり呼ばれなかった。
よくよく思い出せば、ひなって呼ばれたこともあった気がするけど、そういう時は大抵なにかが起こってる時で、あんまり気にしてなかったというか、気にしてられなかったというか…
とにかく、ひなって呼ばれるのが新鮮で小っ恥ずかしい。
ちょっとだけドキドキしながら、そっと五条先生の隣に座った。
「そんな緊張するな。ここはもう自分の家なんだからリラックスしたらいいんだぞ。で、腹減ってるか?昼はデリバリー頼むから、ここから好きなの選べ。」
そう言って渡されたスマホの画面には、ピザの写真がずらり。
マルゲリータ、ペパロニ、クアトロ・フォルマッジ……
いろんなのがあるけど、ピザなんて食べたことなくて選べない。
「五条先生、全部美味しそうだけど、わたし、ピザなんて食べたことなくてどれ選んだらいいか…」
「ん?小さい頃よく食べてたぞ。覚えてないか?」
え、そうなんだ。わたし、ピザ食べてたんだ。
まぁ、アメリカにいたんだからそりゃピザくらい食べてるか。
全然覚えてないや。
「全く記憶にないです…」
「そうか。じゃあ、ハワイアンにしよう。ひなはそれが1番好きだったから。」
五条先生のことを思い出したとはいえ、夢で見たことくらいしか記憶には残ってない。
だから、そうやって自分でも知らない昔の話をさらっとされると、本当に五条先生と住んでたんだなって改めて感じる。
でも、今の五条先生にあのトムの面影はないけど…
結局、全部五条先生が決めて注文してくれて、20分ほどで来るみたい。