ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜
第30章 意地っ張りの代償
トイレを出ると、まだ暗くてシーンとした廊下の空気にエレベーター事件を思い出す。
「…ふふっ。」
裸足で腕から血を流して必死に走る自分の姿を想像すると、急におかしくなって1人で笑ってしまった。
寝起きだからか少しほてっててフラつく身体に、廊下のほんのり冷たい空気がスッとして気持ちいい。
すぐに病室へは戻らず、談話スペースのソファーに腰掛けた。
少しずつ明るくなっていく窓の外を眺めながら、少しの間ぼーっとしてると、
「ひな…」
ビクッ…
五条先生…
すぐ後ろにいるのはわかってる。
だけど、振り返る勇気がなくてうつむいた。
「朝早くこんなとこでいたら冷えるぞ。」
ビクッ…
五条先生の優しくて低い声とともに、後ろからふわりと白衣をかけられた。
ふわっと五条先生の匂いも香った。
「部屋戻るぞ。」
って言われても…
昨日までのことを思うと、どう振舞ったらいいのかわかんない。
すると、五条先生の足が視界に入ってきて、
ぽんぽん…
五条先生の大きな手が優しく頭に乗っかって、その瞬間涙が溢れてきた。
「昨日は悪かった。しんどくなるから早く部屋行こう。」
と五条先生の手が頭から離れて今度は手を握られた。
そして、そのまま五条先生に手を引かれながら部屋へトボトボ歩いてると、
フラッ…
急に足に力が入らなくなって、五条先生の背中に倒れそうになると、わたしが倒れるより先に体の向きを変えて受け止めてくれた。
「ほら、言わんこっちゃない…」
「…グスン…グスン……ヒック…」
「泣かなくて大丈夫だ。」
と、五条先生は片手でわたしをひょいっと抱っこして、もう片手で点滴スタンドを押しながらシーンとした廊下を進んだ。